Beginning
-はじまりの物語-
遥か昔――
竜と獣と、人間とが共存していた世界がありました。
彼らは互いに助け合いながら生活していました。
苦楽を共にし、種族の枠を超えた交流があったのです。
しかしある時、人間は知恵をつけました。
この世界のありとあらゆるものに宿る力の源――"気素"を使って
人間たちは魔法を生み出したのです。
便利な魔法を使うことで、人間たちは豊かに生活をしようと考えていました。
竜や獣たちに魔法を理解することはできませんでしたが
人間たちの扱う不思議な力のおかげで、より豊かな生活ができることに感謝をしていました。
ひそかに人間たちは
「われわれは竜や獣たちよりも優れている種族だ」
と思い始めたのもこの頃です。
魔法はたちまち人間の文化となり、彼らは少しずつ竜や獣たちとと離れていきました。
竜と獣たちは魔法を知るため、独自に"気素"を研究し始めました。
一度は豊かになった生活が、人間たちの魔法が無いせいで
様々な面で苦労することに気が付いてしまったためです。
彼らは人間たちに頼らずとも魔法を使えるようになりたかったのです。
竜や獣たちもまた、人間たちとの距離を遠ざけていった時代ともいえるでしょう。
そんな竜や獣たちに、人間たちは怯えました。
自分たちの力を奪われてしまう――。そう考えたのです。
もう、そこには種族と種族の交流は皆無に等しく
魔法の無かった時代にあった"共存"という言葉は失われていました。
ある人間が言いました。
「ヤツらが"気素"を理解する前に、われわれが魔法を使って奴隷にしてしまおう」
このたったひとつぶの言葉の雫は、たちまち波紋のように広がり
やがて人間たちが竜や獣たちを支配する奴隷制時代の始まりを迎えます。
それまで魔法は飽くまで『生活を便利にするためのもの』という認識のもと研究が進んでいました。
しかし人間たちが、竜や獣たちを"敵視"するようになったこの時代から
魔法は争いの道具として使われるようになったのです。
竜や獣たちと、人間たちの戦争が始まるのに時間は必要ありませんでした。
人間たちは魔法を使い、竜や獣たちはツメやキバを使い、戦い続けました。
争いは決して止むことがなく、何日も何日も続きました。
自身の膨張した気素に取り込まれて狂ったように魔法を使い続けた人間
自らの理性を捨て去り地上にいる生物全てを己が爪で切り裂き続けた獣
怒りに我を忘れ虚空より旋回しその目に映りし情景を焼き尽くし続けた竜
今まで戦うことの無かった彼らはその加減が分からずに
自分たちの力を全て使い切るまで争い続けたのです。
この世界には、それぞれの種族を統べるための"賢者"がいました。
人間、竜、獣――その3人の賢者と、さらにその賢者たちをまとめる大賢者は
"四賢者"と呼ばれており神々から大いなる力を授けられていました。
そして、この凄惨な争いを見た四賢者たちはある決断をしました。
人間たちと竜と獣たちが住むこの世界を、2つに分けることにしたのです。
これが今の竜獣界と人間界です。
この2つの世界はその後決して交わることがなく
互いの世界はそれぞれおとぎ話のような形で伝承されていきました。
気の遠くなるような年月が過ぎ――とある問題が生じました。
元々は1つだった世界を切り離したために発生してしまった"歪み(ひずみ)"が
各地で見られるようになったのです。
この"歪み(ひずみ)"は、竜獣界と人間界とを繋いでしまう『門』のようなものだったのです。
賢者たちがその異変に気付き始めた頃
とある1人の少年竜は不思議な夢を見るようになります――。
Characters
-ComedySide-
エフ
「考えるよりも、まず行動あるのみっスよ!」
Characters
-TragedySide-
サマエル
「私は、私の正義を貫くだけです」
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