その10 「バカはバカなりにバカなことをバカみたいに考えてる」







後編








――そして再び3月某日















「……それで、結局らいちはチョコを渡せたの?」


「それは……」


「……」


「うう……ボクが余計なこと言ったから……」


「ぜるるくんは悪くありませんよ。
 ただ、タイミングが悪かっただけですね……」











「……」


「……」


「……」




















「ったく、こっちが葬式ムードでどうすんのよ!
 あんたたち、もう少ししゃきっとしなさいよね、しゃきっと!」


「ふろろ……」


「アタシはそんな個人の恋愛に同情なんかされたくないわ!
 同情してやるよりも、元気づけてあげることの方が大事だと思わないの?」


「……」






「ふろろ……、たまには良いこと言うんですね」











「(うふふ、なんだかこういうテーマで一本作れそうな予感……!
 主人公はー、やっぱりぜるるみたいなショタっ子でー……)」


「ふろろ?」


「あ、え、お、なな、なんでもないわ」


「(お姉ちゃんのことだから、絶対裏がありそう……)」


「ていうか、そもそもかげろーはどこに行ったのよ」












「……呼んだか?」


「う、うわっ!?
 いつの間に背後に……」


「おい、フロート」


「はい?」


「ちょっと俺に付き合ってくれないか」


「(かげろー×フロート……
 いや、フロート×かげろーもアリね……
 まあ、アタシの守備範囲外だけど)」


「(ふろろー、意味をとらえ間違えてますよー)」


「べ、別に良いですけど……。
 どこに行くんですか」


「黙ってついてこい!」


「あ、ちょっ! ひ、ひっぱらないでええ!
 頭のひれはらめえええええええ」



















「あー……、行っちゃった」

「いったい急にどうしたのかしら」


「(かげろーくん、もしかして……)」










「はぁ……」










「しかし、らいちはさっきから、ずっとあの調子ですね」


「らいち……。
 ねえ、らいち、元気出して!
 また一緒にゲームでもして遊ぼうよ!」







「はあ……」







「うう、らいちー……」

「あ、ぜるる!?
 あ、えと、どうしたの?
 ごめんなさい、何も聞いてなかったわ……」


「えーっと、その……。
 ううん、やっぱりなんでもない……」


「(ぜるるくん、やっぱり気にしてるみたいですね……)」













「……」













「らいち」


「……何」


「あんたってツンデレでもなんでもないのね」


「……は?
 別に、私はツンデレじゃないわよ。
 放っておいてちょうだい……」



「ツンデレだって、伝えたい気持ちはきちんと最後には伝えるわ。
 でも、今のあんたは、ただ待ってるだけの意気地なしよ」


「あなたみたいなオタクに偉そうな口聞かれたくないわよ」


「じゃあ、あんた、自分から動いてみなさいよ」







「私だって……」













「私だって、少しは動いたわよ。
 でも、結局のところ無理ものは無理だったの!
 知ってたわ、最初からあいつが私に興味ないってことぐらい!」


「(らいち……)」


「あんた、バカあ!?
 自分でそれを聞いたの!? 聞いてないんでしょ!?
 それなのに勝手に決めつけて、落ち込んで、諦めて、
 自分で終わらせちゃってどうすんのよ!!」


「……わかってるわよ」


「……」


「わかってるわよ、そんなこと!!」







ダッ







「あ、らいち!!」


「飛びだして行っちゃいましたね……」


「……」


「お姉ちゃん……」











ドタドタドタ









「らいちー!
 って、あれ、らいちは?」


「今外に飛び出て行っちゃった……」


「あっちゃー、バッドタイミングですねえ」


「追いかける!」


「あ、ちょっと、かげろー!!」










ダッダッダッ……














「いったいどうしたんですか、フロートくん」


「なんか、かげろーが渡したいものがあるって言って……
 それで、僕に確認をとって大丈夫だったので、らいちに渡そうとしたんですけど――」




「渡したいもの……?」


「えーとですね……」





































「らいちー!!」














「……らいちー!!」














「……ったく、あいつどこ行きやがったんだ」









































「(どうせ、私なんか身長もないし、デブだし……)」











「おい」


「(性格も悪いし、意気地なしだし、可愛くもないし……)」


「おい」







「!?」


「か、かげろー……」













「……」


「……」














「今まで、その、なんだ……
 すまんかった」


「……なんで謝るのよ」


「キュウコンの姐さんとの、その、キッスは、あれは完全な事故だ。
 バレンタインのチョコだって、姐さんはみんなにあのサイズを配っていた。
 何より、姐さんは、この間無事に彼氏ができたそうだ」


「え……」















「……」


「……」















「……」


「……」




















「その、だから、なんだ……
 えーっと……そうだ」



















































































「……どうやら、成功したみたいですね」


「かげろーくんも、もらってないバレンタインにホワイトデーでお返しとは……
 なかなかやりますね」


「二人とも笑ってる! 良かったあ〜!」


「ぜるるが笑顔なら、アタシはそれだけで良いわあ〜!」

「(さっきの真剣なふろろはどこへ行ったのやら……)」
















「ところで、ひとつ気になる点があるんですが……」


「なあに?」


「らいちのチョコ、結局ゴミ箱に捨ててあったのを目撃してしまって……。
 
 それをそのままかげろーに渡そうかとも、思ったんですけど……
 しばらく時間を置いて、見てみたらチョコがなくなっていたんですよ」


「それは、らいちが別の場所に置いたとか?」


「いえ、らいちはゴミ箱の方へは行きませんでしたし……」


「でも、もしかしたら……
 らいちはチョコを渡していなくて正解だったかもしれません。」


「へ、なんでですか?」


「あの時、グラニュー糖とお塩を間違えて渡しちゃったみたいなんです。
 私の作ったチョコは大丈夫だったんですけど……」


「(すぅさん、それ天然じゃなかったら、犯罪級の間違いですね……)」














「あれ……まさか……」


「どうしたの、お姉ちゃん?」


「そういえば、あの時捨ててあったチョコ食べたんだけど……美味しかったわ!」















「……」












「(捨ててあったチョコ……食べようとしませんよね、普通……)」


「(さすがふろろ、他の人たちとは違う感覚を持っていますね)」


「(あぁ、またこれでお姉ちゃんの武勇伝が一つ増えてしまった……)」























ドタバタホワイトデー編 完


















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