その10 「バカはバカなりにバカなことをバカみたいに考えてる」







前編







――翌日















ほんっっっっっっとおおおおおにすまなかった!!!!!


「うわわわっ、きゅ、急にどちら様ですか!?」


「あ、い、いきなりで申し訳ない!!
 私、かげろー君と同じバイト先で働いてるんだけど、かげろー君、いるかな?」


「(あ……!!
 き、昨日のキュウコンじゃないですか……!?)」


「かげろーは、なんでも昨日飲みすぎたとか言って、今寝込んでますけど……」


「うわあああ、それは本当に申し訳ないことをした!!!
 うぅ……、私ってほんっとにバカだなあ……」


「ということは、かげろーと一緒に飲みに行ったのは……」


「ええ、私だわ……。
 私、お酒が入っちゃうと周りが見えなくなって……。
 昨日のことも全く覚えてないの……」


「(ということは、キスのことも忘れているのかな)」


「でも、昨日、かげろー君に物凄くいけないことしちゃって……
 それで今日謝りに来たんだけど……」


「ものすごくいけないこと?」


「そ、その……。  き……い、いえ、なんでもないわ!!

 と、とにかく、かげろー君が寝込んじゃってるんなら起こすのもいけないし
 日を改めることにするわ。

 シャワーズさん、かげろー君に、キュウコンは反省していますと伝えておいてくれないかな」


「あ、はい。わかりました」


「わざわざごめんね。
 ありがとう!」













「あ……、行っちゃった……。


 ということは、あの喫茶店でかげろーはキュウコンさんとバイトをしていて
 その帰りに飲みに行ってしまったというわけですね」


「しかし、どうしよう……。
 このことは、かげろーには伝えるとして、問題はらいちですね」


「どうにかして元気づけてあげたいけど……
 キュウコンさんのキスは、事故だったと割り切ることができるでしょうか」


「誰かに相談したいけど、ぜるるはまだまだ子供だし、ふろろは当てにならないし……
 ここはすぅさんですね」




















「なるほど。
 それで、今日のらいちは元気がなかったんですね」


「どうにかならないでしょうか」


「そうですねえ……。
 それじゃあ、しばらくは私に任せてみてください」


「何かあるんですか?」


「はい。出来る限りのことはしてみますね」





























「……」

「(キス……かあ……)」


「らいちー」


「(そういえば、最初のキスは……)」


「あの、らいち?」


「!?」


「すぅ!?
 も、もう、驚かさないでよ……
 どうしたのよ、急に」

「えーっとですね。
 ちょっと、らいちに教えてもらいたいことがあって……」

「私に?」


「その、チョコ作りを教えてもらいたいのです。
 私、お料理とか全然できないので……」


「すぅはいつも見事に塩と砂糖を間違えるからね」


「私の家で作りたいのですが、良いでしょうか?」


「(チョコ作りかあ……。
 そういえば、もうすぐバレンタインなのよね……。
 でも、あいつは……)」







「らいち?」


「あ、ごめん、ごめん。
 良いわよ、教えてあげる。
 それじゃ、行きましょ」















――すぅの家






「てことは、かげろーくんに彼女が出来たってことですか?」


「そそ、そんなことあ、あるわけないじゃない」


「ふふ、そうですね。きっと大丈夫ですよ。

 先ほどふろろから聞きましたが、かげろーくん、帰ってきた時にお酒臭かったみたいですよ。
 きっと、バイト先の先輩が悪酔いして、勢いでキスされちゃっただけですよ」


「そうね……。きっとそうよね」










「……で、ここにグラニュー糖を入れるんでしたよね」


「そうそう、よーく混ぜてね。
 で、そのあとは湯せんにかけて泡立てるのよ」


「なるほど……」


「ところで……このチョコ、すぅは誰に渡すつもりなのよ」


「それは……えと……。
 ……お、お父さんですよ。
 日頃の感謝の意もこめて」


「すぅは親孝行娘ねえ……」


「(そんなこと言いながら、らいちもちゃっかりと作っちゃって……
 かげろーくんに渡す気満々ですね)」














「よーし、できた!
 さあ、どんな味かな」


「え、もう食べちゃうんですか?
 誰かに渡すのでは?」


「何言ってるの、すぅ。
 これは練習よ、練習。
 ぶっつけ本番じゃ、あんたの場合大変なことになっちゃうでしょ」


「確かに……。らいちの言う通りですね」














「うん、すぅのもよく出来てるじゃない!  これだったら、次本番でも大丈夫ね!」


「ふふ、良かったです
 (らいちも元気になってきたみたいですね)」




























「ただいまー!」


「お、帰ってきましたね。
 おかえりなさーい。 (この様子だと、すぅさん上手くやってくれたみたいですね)」


「そうだ、らいち。
 先ほど、昨晩のキュウコンさんが来て謝っていましたよ。
 なんでも彼女、かげろーと同じバイト先で働いてるみたいで
 帰りに飲みに行ったら、酔っ払っちゃったみたいで……」




「あ、そうなの。
 お酒には気をつけなくちゃいけないわね!」


「そうですね。僕も大人になったら気をつけたいです。
(良かった、昨日のらいちがまるで嘘みたいだ)」































――バレンタインデー当日





――再び、すぅの家





「で、ここでグラニュー糖ですね」


「ああ、ちょっと待って! 全部入れちゃダメ!
 3回にわけて入れるのよ」


「え、そうなんですか」


「で、入れたら、ツノが立つまで泡立てるの」


「ツノがたつ?」


「じゃあ、私が先にやったのを見て。
 ほら、こうやって、すくったときにツノみたく立つでしょ?」


「おお、なるほど!
 これがメレンゲになるんですね」


















「よし、上白糖をかけて……これで完成ね!」


「ふう、長かったです……」


「でも見た目バッチリじゃない!
 これでお父さんも喜んでくれるわね」


「あ、えーっと、そうですね!
 早くお父さん帰ってこないかしら」


「それじゃあ、あまり長く居ても邪魔だし、私は帰るわね」


「あ、はい。
 この間といい、今日といい、教えてくれてありがとうございました!」


「こういう時は敬語じゃなくても良いのよ?
 私もすぅとおしゃべりしながら作れて楽しかったわ」










「ふふ、それでは」


「うん、じゃあね!」


「(これであとは、かげろーくんに渡せれば完璧ですね……!)」


















「たっだいまー!!」


「あら、おかえりなさい」


「おっかえりー!!」


「あら、フロートは?」

「そういえば、出かけたきり帰ってきてないわね」



「どこかでチョコでももらってきてるのかしら」


「お姉ちゃんはチョコ作らないのー?」


「良い、ぜるる?
 バレンタインっていうのはね、チョコのイラストを描いて発表する日なの。
 決してカップル同士がイチャイチャするような日ではないのよ」


「へー……」


「(刷り込み教育だ……)」


「そういえば、かげろーも帰ってきてないわね」


「今日もバイトなのかなあ」


「……」










ガチャッ











「ただいまー!」


「あら、お帰りなさい」


「なんかだかフロート、嬉しそうだね?」


「え、そ、そうですか? ふふふ……」


「なんなのよ、気持悪いわねえ……」


「もしかして、チョコもらってきたとか?」


「!!」


「そ、そんなことあるわけないじゃないですか〜!
 ぼぼ、僕がチョコをもらうだなんて、そんな……」


「(あの顔、絶対誰かにもらってるわね……)」


「(へえ、フロート、やるじゃない)」


「(そっかー、フロートがもらえるわけないもんね)」


「あれ、かげろーはまだ帰ってないみたいですね?」


「たぶん、そろそろ帰ってくるとは思うんだけど……。
 ったく、遅いわねえ……」


「(この様子だと、かげろーにチョコ渡すみたいですね)」




















ガチャッ











「ただいま帰ったぜ!」


「おっかえりー!!」


「ど、どうしたんですか、その大きな袋は?」

「いやー、なんだか、バイト先でみんなが俺にチョコあげるって言ってさー!
 もらいすぎちゃって、袋に入れて来たんだよ!」



「あんた、案外モテ男だったのね……」


「俺もびっくりだぜ!
 最近の世の女性は安定収入の男の方が良いって
 この間雑誌に書いてあったのになー。」



「(こ、これはマズい展開ですね……。
 らいちが自信なくしていなきゃ良いけど……)」



















「……」









「(なくしてる――!!)」


「これは、先輩のバシャーモさんからでー、これは、後輩のリザードンちゃんからでー
 これは、キュウコンの姐さんからでー、これは同い年のブースターからでー」


「わー、すごーい!」


「(ああ、かげろーも余計な事を……。
 さり気なくキュウコンさんからもらったって言ってるし……)」


「……」


「このチョコ、すっごく大きいねー!」


「ああ、それはキュウコンの姐さんからだったな!
 たぶんこの中で一番でっかいぜー!」


「(ぜるるも余計な事を……!!)」


「……



(チョコもらう
 ↓
 チョコ大きい
 ↓
 気持も大きい
 ↓
 本命
 ↓
 本命チョコ
 ↓
 チョコ本命
 ↓
 告白
 ↓
 キス
 ↓
 キ ス
 ↓
 キ  ス
 ・
 ・
 ・
 ・」

















「(って、ああ!?
 いつの間にか、らいちがいない……!?)」


「(あとから渡すつもりなんでしょうか……。
 それとも――)」












































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