その9 「酔って酔わされ酔いながら」

前編









――3月某日





「もうすぐホワイトデーだねー」


「そういえば、なんでホワイトデーっていうんですかね?」


「ホワイトデーって、バレンタインデーのお返しに飴を送るのが一般化してきていますよね。
 その飴の材料の砂糖が白いからそういう名前がついたそうです」


「でもホワイトデーやらバレンタインデーって今じゃお菓子業界の戦略よね。
 まぁ、ネタとしては扱いやすいからいいんだけど」


「まぁ、私たちからするとその点では良いかもしれませんね」
 
「そうそう、ホワイトデーの他にも韓国ではブラックデーイエローデーというのもあるそうですよ
 前者はコーヒーを、後者はカレーを飲食するそうです」


「もう何でも有りだね」


「じゃあ、ぜるるの色みたいにオレンジデーっていうのを作って
 その日はぜるるを食べる日にしましょう(性的な意味で


「残念ながら、日本にもうオレンジデーは作られていますよ
 その名の通り柑橘類をPRしているそうです」


「(あ、危なかった……)」


「はぁ……」


「あら、らいちもぜるる君を狙っていたんですか?」


「はぁ……」


「おぉっと、らいちのツッコミがないときほど気味の悪いことはありませんね。
 まだあの時のことでも引きずってるんですか?」


「そうかもしれませんねぇ」


「え、何の事?」


「あれ、ぜるるくんは知らないんですか?」


「そういえば、ぜるるは今回の話にはあまりかかわっていませんでしたね。
 もうひと月も前の話なんですが……」


















――あれは、2月のある日のことでした。















「もうすぐバレンタインデーだねー」


「まぁ、私にはまったく関係のない行事ね!
 そんなことより、あんたたち。
 私、ココに来たばっかりであんまりコガネシティのこと頭に入ってないのよね。
 ちょっといろいろと案内してくれないかしら?」


「おぅ、いいぜ! 観光だな。
 じゃあ久々にラジオ塔でも行ってみるか、ぜるる」


「うん、いいよ。
 あとは近くに美味しいハンバーガー屋さんがあるから、そこにも寄ろうよ」


「それじゃ、ルートはあんたたちに任せるわ」









「あー……あー……。うー……うー……。んー……。」


「どうしたんですか? らいちらしくないですね。
 もう少し落ち着いて下さいよ」


「あー……あー……。うー……。ん……? あぁ。ごめん。
 何か言った?」


「(バレンタインデーが近づいてそわそわする気持ちは男女ともに同じなんですね……)」


「ところで……」


だれに渡すつもりなんですか?


「なっ……!!!」


「何言ってんのよ、フロート!!!!
 あんた、年上をからかうなんて許されないわよ!!!!」


「(ず、随分とわかりやすい反応ですね)
 なんで去年はあげなかったんですか?」


「きょ、去年は……、ざ、材料を買い忘れただけよ」


「ふーん……」


「な、何よその目は……。
 それよりフロート。私ちょっと今から街に行くから付き合いなさいよ」


「どこに行くんですか?」


「大通りの方よ、なんか文句ある?」


「またあのファッションショップですか?
 僕は興味ないのでいいですよ。
 あそこのイヤリング高すぎますし……」


「何言ってんのよ! あんな綺麗なデザインだったら、あれぐらいが妥当よ。
 きれいよね……、あのイヤリング」


「僕にはよくわからないです」


あんたそもそも耳の場所わからないしね


「って、そうじゃないわよ。
 今日は別件よ。ちょっとぐらいいいじゃない」


「はぁ、仕 方 あ り ま せ ん ね ぇ 
 本当は今日中にこの本を読み切ろうと思ったんですが……
 らいちが ど ぉ ぉ し て も っていうんであれば行ってやらないことも」


「……」


「喜んでお供いたします
 (あの手は本気でぶん殴る時の拳だ……!)」









――コガネシティ ハンバーガーショップ







「ね? 僕の言ったとおり美味しいでしょ」


「本当ねぇ
 本当に言ったとおりぜるるの美味しいわ


「なんだかこいつが言うとなんでもかんでも卑猥に聞こえてくるのは何故なんだろうな」


「あら、そんなに褒められると嬉しくなるわ
 ふろろはね、嬉しくなると、ついやっちゃうんだ☆
 みんなも一緒にやってみようよ! いくよ? らんら


いいから黙ってハンバーガー食っててくれ








「で、結局、なんで僕たちはかげろーたちを追跡してるんですか?」


「なな、何が追跡よ!!
 たっ、たまたまたまハンバーガーが食べたくなっただけよ!!」


たまが一匹多いですよ
 そんなに気になるんでしたら一緒に二人きりでデートでもすればいいのに」


だ、誰がかげろーなんかとするのよ!


「(かげろーなんて一言も言ってないんですけどね……)
 あ、なんだかかげろーだけ違う方向に行ってますよ」








「それじゃあ、俺はもうすぐバイトの時間だからここらでお別れだ」


「うん。頑張ってね〜」












「やっと二人きりですね、ぜるるくん」


「Nice Boat.」


「危なくなったら交番へ行くんだぞ、ぜるる」


「うん、わかってる








「どうしてかげろーだけが別れたんでしょうね……
 まさか誰かと待ち合わせしているとか……」


「そんなわけないでしょうが。
 あいつに女がいる気配なんか微塵も感じなかったわよ」


「(だから女って言ってないのに……)」


「あ、あっちに行ったわよ!
 フロート、さっさとついてきなさい!」


やっぱり追跡じゃないですか……




















「遅いなー、姐さん……」













「誰かを待っているみたいね……
 いったい誰かしら……」


「そんなに気になるんだったらこそこそしてないで本人に聞いたらどうですか?」


「できたら最初からしているわよ!!」


「本当にらいちって、素直じゃないですねー
 そんなだからふろろからツンデレって言われるんですよ」


「私はツンデレじゃないわよ!!
 ……あ、誰か来たわ」













「おーっす! やー、待った?」


「いや、そんなには待ってな」


「そうよねぇ! かげろー君も時間どおりに来る子じゃないしねー!
 あんまり待ってないよね! そいじゃ行くとすっかぁ!」


「あ、ちょ、ちょっと待って下さいっす」













「女性のキュウコンですね……」


「……」


「ま、まぁ、そうお気を落とさずに
 他にも男なんてたくさんいますよ」


「……行くわよ」


「あ、まだ諦めてはいなかったんですね」


「まだ彼女がかげろーのモノだとは断定できないわ
 まぁ、キスでもしたらいやでも認めてやるけどね
 ……ほら、行くわよ!!」


「(女の人ってたくましいなぁ……)」


























「さぁて、今日もがんばりますかぁ!」


「今日もよろしくお願いしますっす」










「ここは……喫茶店ですね
 二人きりでお茶でもするのでしょうか」


「……ここからじゃ全然聞こえないわね」










「そういえば、もうすぐバレンタインデーねぇ……
 かげろー君は……いるのかな?」


「へ? 俺はここにいるっすよ」


「だー、そうじゃないっての!
 バレンタインデーにもらう相手はいるの、って聞いてるのよ」


「あぁ、そういう意味っすね!
 もちろんいないに決まってるじゃないっすか」


「あれ、意外ね。かげろー君はバトルもできるし、女の子にモテモテなイメージがあったけど」


「そんなんじゃあいまどきモテモテになれないんすよ……
 最近の世の女性はバイトのフリーターよりも安定収入の男の方が好みらしいっす」


「何それ! つまらない恋ね、そんなの
 いいわ、私が恋のなんたるかを教えてやるわ!!!」


「え、ちょ、別に俺が安定収入の男が良いっていったわけじゃn」


「うおおおおおお、今日も働くぞおおおおおおおおお」


「ちょ、ちょ、引っ張らないでくださいっす〜」


























「かげろーくん」


「ん? 何すか?」


「かげろーくんは、私のこと、好きかな?」


「もちろんに決まってるじゃないすか!」


「あぁ、嬉しいわ、かげろーくん
 あなたと一緒にいるだけで幸せな気分だわ」


「キュウコンさん……、そんな風に言ってくれると、俺は……俺は……」


「な、泣かないでよ、かげろーくん
 かげろーくんが泣いちゃったら、私だって……
 あぁ、他の人に涙を見られたくないわ、早く入りましょう」


「そうっすね」


「うふふ、それじゃあ引っ張るわよ」


「あぁ、俺はなんて幸せなんだろう……」


















「……フロート、勝手に吹き替えしないでくれる?」


「ま、まぁまぁ! その拳を下げてくださいよ!!
 ほんの出来心ですって」


「もう最後の方は無理やりじゃない!!
 なんで引っ張ってもらって幸せになるのよ!
 かげろーだって、そこまで変態じゃないわよ


「(そこまで?)
 と、とにかく中に入ってみます……?」


「……でも入ってみてばったり会ったら……」


「それじゃあしばらく外で待っていてみましょうか」

























やみーやみー……
やみーやみー……










「だいぶ暗くなってきましたね……」


「……」


「もう帰りませんか?
 ちょっと寒くもなってきましたよ?」


「フロートが帰りたいなら、一人で帰っていいわよ
 私はここで待ってるわ」


「……はぁ。仕方ないですね
 僕も待ちますよ」










ガチャッ











「あっ、ようやく出てきましたね」






「んー、今日も働いたわねー」


「そうっすねー」


「それじゃあ、今日は久々に飲みに行きますか!」


「え、あ、俺はちょっとk」


「もちろん、私のおごりでいいわよ!
 さぁて、どこから行こうかなぁ!!」


「(ど、どこから?!)」


「(姐さんは酒が入るとなぁ……まずいんだよなぁ……」


「ほらほら、行くわよ、かげろー君!」


「だ、だから、ひ、引っ張らないd」












「……あっちは家とは正反対の方向ですね」


「……


 (街の方へ
 ↓
 夜に街へ行く
 ↓
 泊まる
 ↓
 ホテル
 ↓
 HOTEL
 ↓
 あんなことやこんなこと)」








「!!」







バタッ







「ちょ、らいち!?
 急に倒れて、どうかしたんですか!!?」




「……はっ!
 あ、いや、なんでもないわ……
 とにかく追うわよ……」


「だ、大丈夫なんでしょうか……」



























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